人材開発研究大全 第11章OJTと社会化エージェント まとめ
人材開発研究大全 第11章の内容について読書メモです。
こちらの読書会に向けた事前のまとめになっています。 career-update-org.connpass.com
TL;DR
- 新卒一括採用〜終身雇用という仕組みが、「失われた10年」を経て変わり、それに伴いOJTも従来とは変わってきた
- OJTを実施する社会化エージェントには、3つの役割分担があり、「協力・配慮」「人脈拡大」「相談対応/内省支援」がそれにあたる
- 社会化エージェントにとって、OJTを実施する支援理由が何であるかは、ネットワーク論やイノベーション論の観点から説明できる可能性がある
本章の構成
- 日本企業における新卒社員の育成
- 新卒社員の育成に役立つ組織社会化研究の知見
- これまでの研究により社会化エージェントが重要なのが分かった。が、その役割についてはまだ不明確
- 実証研究の事例:社会化エージェントの役割分担
- 筆者が社会化エージェントについて研究して、社会化エージェントに重要な役割が明らかになった
- 社会化エージェント研究の展望
- 社会化エージェントの支援行動の理由はまだ不明確。ネットワーク論やイノベーション論から考えられる可能性がある。
本章の詳細
日本企業における新卒社員の育成
- 1920〜1930年頃、新規学卒者の就職難が深刻化したため、学校と企業の結びつきを強め、就職を斡旋した
- 当時、農村において、余剰人員を放出しることが課題だった
- 1980年代までうまくいっていたが、バブル崩壊後、企業の新規採用が減少したり、非正規雇用が増大するなど、就職の流れが大きく変化した
- 経営環境の変化により、企業側は長期雇用と企業内教育から手を引き始めた。これがOJT機能不全に繋がっていく。
- かつては、先輩を見て、将来の自分を想像し、先輩にしてもらったように後輩を育てることが出来たが、先輩は解雇され、新人は入って来ず、久しぶりに新人が入って来ても、先輩に新人を育てる余裕がない、結果、新人を上手く育てられない、という状態が発生しやすい
- かつてと比べて大きな変化が起こったのは、メンバー構成なので、今のメンバー構成でのOJT再構築を目指すのが良いだろう
新卒社員の育成に役立つ組織社会化研究の知見
- 新卒社員の組織社会化の研究によると、組織社会化を効果的にするためには、「社会化エージェント」が重要
- 先行研究を見ても、OJTリーダーや指導員以外がどのように新卒社員に関わったのかまで踏み込んでいない
- OJTを進めるにあたって、新人教育をするための人的・時間的余裕が必要。なので、周囲と協力して行う必要がある
- しかし、先行研究では、直接の担当者以外の社会化エージェントがどのように協力すれば良いのかについて、不明なままである
実証研究の事例:社会化エージェントの役割分担
- 筆者が社会化エージェントが複数の場合における、役割分担を明確にするための実証実験を行った
- OJT指導員は、「協力・配慮」「指導」の2因子が組織社会化に優位な直接効果を与えていた
- OJT指導員以外の他者は、「連携指導」「人脈拡大」「相談対応」「独自指導」「内省支援」の5因子
- 他者①による「人脈拡大」、他者②による「相談対応」「内省支援」というように、組み合わせがある
- 他者①は「異質な人」、他者②は「同質な人」
- これら3者の行動により、新卒社員の組織社会化が促進される
社会化エージェント研究の展望
- OJT指導員以外の他者が新卒社員育成に関与する支援理由が明らかになっていない
- 知識の増加、意欲の向上、学習の機会、職務の再設計などの肯定的な影響がインセンティブとなっている可能性
- 直接の指導員にはあるかもしれないが、他者にもあるようには見受けられない
- メンタリングチェーン(恩返し)の可能性
- 就職氷河期に採用された人は、指導してくれる先輩にも恵まれなかったのでは
- Organizational Citizenship Behavior (組織市民行動) の可能性
- 組織市民行動とは、自由裁量で、公式的な報酬はないが、組織のためにする個人行動
- 他の人がやっているから自分もやろうという「慈善的行動の模範」
- もっと実利的な理由の可能性
- 新卒社員が早く仕事ができるようになれば、自分が楽になる
- OJT指導員や新卒社員に対して恩を売っておき、先々に何らかの見返りを得ようとしている
- 新人教育を通じてネットワークを広げる社会化エージェントを、ネットワーク論で考えてみる